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招待と登録の長いトンネルをくぐるとそこは荒野だった…(mixiに舞い戻って一言)。みんなツイスターとかnovaに夢中なの?「@mereco You`re nowa-tomo,right?」とかって言っちゃってるわけェ?メレ子、@マークであこがれのブロガーに話しかけるのなんてようせん…!灯台守のようにmixiで日記を書きつづけます…昔の名前で…出ています…。
おねがいマイミクシィ
いまを生きる男
ブース清掃を終え戻ると、牧さんが「メレさん、今日で上がりだっけ?」と訊いて来た。
「お世話になりました」
「最近皆やめてくね…俺も早くやめたいわ」
「牧さん一番入ってますものね」
「あ、メレさん!最後にいいもの見せてあげようか!」
「お粗末な男性自身とかはやめてくださいね。目が腐れます」
「キツすぎるツッコミが聞けなくなるの寂しいネ!ちょっとそれ貸して」
牧さんはメレ子の手から消毒用のアルコールが入った霧吹きを奪い、客の忘れ物のライターをかざしてプッシュした。
「わー」水で薄めているとはいえ、軽く30センチは火柱が上がる。
「コレすごいべ?」
「それをレジでやる頭がすごいです。店長、防犯カメラ見てるって言ってたじゃないですか。牧さんクビですよ」
「いいんだってー。知ってる?君が来る前に店長がセクハラして女子が辞めまくって、もう募集かける余裕ないの。懲りて今は大人しいけど。俺がクビになったら店回らないしね…アハハウフフ」
最古参である彼の目に狂気が浮かぶ。清々しい気持ちで去れそうだ。深夜の漫画喫茶は勤務は楽なのだが、どうやら人の気力を削ぎ落とす空気が澱んでいるらしい。薄暗い蛍光灯、毎晩来て散らかし放題のホームレス、ブースで吐く酔っ払い、小銭を投げ出すキャバ嬢…。
その時エレベーターが開いて、「おはようございます」とこれまたバイトの鍋山君が入って来た。日付が変わる頃合でもここではおはようございます。すかさず牧さんが鍋山君をエレベーター前に引き戻し、火柱ショーを再演。そこには管理ビルの防犯カメラが付いていたはずだ。ゴミ箱のしまい方ひとつで怒鳴りこんで来る管理人の老女がこれを見たら憤死するのでは?本当に去ることに喜びしか感じない。
鍋山君と交替に牧さんは帰る。シャワー室を拭い、灰皿を洗って来ると鍋山君が
「メレちゃん今日で終りなの?」
「やっぱり遅番は体調狂っちゃうんで」
「勉強とか忙しいの?」
「そうですねー」
「まあ、メレちゃんは俺よりいい学校だしね。若い女の子だからチヤホヤされて、学校も現役で入って、正直挫折ってものを知らないでしょ?だからバイトも辞めちゃうんだよね。そうでしょう?そのまま行くと人の痛みとか分からない人間になっちゃうよ。ちょっと書くもの貸して」
ほぼシフトが重ならず、今日で会うのは二回目の鍋山(敬称略)のいきなりの饒舌さに唖然とするメレ子。痛みに鈍感なのは鍋(山略)ではないのか?ここで言い返すのは簡単だが、とりあえず黙ってレシート用紙をフィードし、ペンと共に渡す。鍋は、満足げに頷いて何か書き始めた。手元を覗きこむと
N.H.クラインバウム
いまを生
「『いまを生きる』ですか」
「ヒッ…よ、読んだことあるの?ああそう…すごくいい本だからね、教科書には載ってない大事なことが書いてあるから…」
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顔をゆがめる鍋。しかし紙片を捨てず、また何か書いて突き出してきた。数字とアルファベットの羅列…
「まあ俺も君より長く生きてるから色々アドバイスもあるからね、相談したいことも出来るだろうから連絡してくるといいよ」
メレ子は紙を受け取って眺めた。
「本おすすめしていただいてありがとうございます!わたしも読んでいただきたい本があるんですよ。でも市販されてなくてお送りしたいので、出来れば携帯でなくて住所を…」
一ヶ月後、メレ子から連絡がないまま鍋山のもとに小包が届いた。青地に風車のデザインの小さな文庫本。一頁目には“メレンゲが腐るほど恋したい”…?栞の挟まった箇所を開く。
2006-12-12
■いまを生きる男
ブースの清掃を終えて戻ってくると、牧さんが「メレさん、今日で上がりでしたっけ?」と声を
これは日記だ!メレ子が日記を送ってきた…なんと手のこんだ愛の告白か。俺に気があると睨んではいたが、「いまを生きる」を薦めた時、あの生意気な女は雷に打たれたように恋に落ちてしまったのだ。仕様がない。その瞬間の彼女の心を読んでやるのが俺のつとめだ。
鍋山の連絡先の記された紙片を手にわたしはただ呆気にとられた。劣等感と性欲を同時に、(自己の中で矛盾なく羞恥もなく)表出することが出来る彼はなんと器用な生物だろう。学会に報告したい。
「あれ?」
彼の手は震えはじめた。本文はここで終って、最後に短いURLが表記してあるだけだ。飛び付くようにノートパソコンを開き、目にも止まらぬ早さで打ち込む。
しかし時遅し、全ての記事は引き上げられていた。ただ残された一文が彼の目を射る。恥辱に震えともすれば裏返りかける声で、鍋山は読み上げた。
セロ引きのゴオシュ
夜更けにアパートのドアをたしたしと叩く音がします。放っておくとがりがりという音に変わってきたので、あわててドアを開けました。廊下を蛍光灯がさむざむしく照らすばかり、と思ったら「メレさんこんばんはあ」足下に黒猫がつるりとすべりこんできます。
「なんだヒジキか」
「朝夜はだいぶ冷え込んでまいりましたでしょ。そこで今日はひとつお願いにあがったんですけどねえ」
「ここで飼えとか新聞取れとか言うんじゃないだろうね。うちはペット禁止だしノンポリだよ。まあ言ってみな」
「メレさんは派手なワイナリーっての、やっておいででしょ?」
「はてなダイアリーね」
「そうそう嘉手納スタンプラリー。そこで『はてなパーカー欲しい!』って叫ぶとパーカーがもらえるって、集会で聞いたんですよう。でもわたし猫だから会長*1がこわくて、メレさんに代わりにいただいてきてほしくて」
「猫がパーカー着るんかい」
「着ませんけどねえ、あったかくて重宝するじゃないですかあごろごろ。LLサイズならごろうちの宿六とごろごろ子供たちとごろみんなごろ入ってご冬ろ越せるでしょごろ。たすかりますごろ」
ごろごろ言いながらこちらの膝を前足でもんできます。こうなったらテコでも動かない。
「わかったわかった。頼んでおいてあげるよ」
「ありがとうございます。では夜分に失礼しましたあ」
猫はしなしなと体をすりつけてから帰っていきました。
朝、寝不足気味で洗濯物を干そうとベランダに出ると、スズメが2羽手すりにとまっています。
「タレ(♂)とシオ(♀)、おはよう」
「おはようメレさん。あのね、僕らお願いがありまして」
「私たちの結婚祝いね、まだ決まってなかったらパーカーでいただけないかしら。小鳥のチロタンからステキなパーカーがもらえるって聞いたものだから」
コウビ上等の鳥畜生が結婚祝いとは図々しい。などと口に出したら洗濯物を毎日フンまみれにされかねません。
「悪いけど猫に頼まれてしまったよ。それにお前らはパーカーなんていらないだろうに」
「いえ、フードだけでいいんです。それだけあれば僕らの愛の巣には充分ですからね」
「巣とYシャツと私、愛するアナタのため、毎日磨いていたいから!はてなパーカー欲しい!」
こちらは洗濯物を人質に取られている身ですから拒否権がありません。
部屋に戻ると、冷蔵庫のかげから遠慮がちに茶色い触角が揺れて「はてなパーカー欲s」みなまで言わせずキンチョールを噴射しました。死ね。氏ねじゃなくて死ね。
「ほんとに困ってるんですよ先生…テントウ虫も『集団越冬にはてなパーカー欲しい!』って言って来るし…ゴキブリなら死ねばいいけど、テントウ虫はなんか無下にできなくって…」診察室で空を見据えながらぶつぶつこぼす女に、医師は笑みで続きを促した。
なぜこの患者が「すべての動物が自分にパーカーをねだってくる」という妄想にとらわれたのかはまだ不明だが、カウンセリングと投薬で根気よく治療していくしかないだろう。
近藤医師は目立たないようにひとつ息をついて、彼女のカルテに
「はてなパーカー欲しい!」
と書きなぐった。