霧にむせぶ冥府との境・大台ヶ原
去年の夏に大台ヶ原(おおだいがはら)というところに行ってきました。重く立ちこめる霧、白骨のような立ち枯れのトウヒ、虚無的な鹿のまなざし…いままでに見た景色の中でもっとも冥府に近そうな神秘的な場所です。とはいえ冥府について本気出して考えたことはあまりないので、「冥府はぜんぜんこんなじゃないです」と言われたら困るのですが…。
大台ヶ原は三重県と奈良県の県境に位置する高原です。標高1694.9mの日出ヶ岳をはじめとする同じような高さの峰が集まって、切り立った崖に囲まれた平原になっています。大和上市駅から奈良交通バス(上下各一本)で山道をのぼって二時間弱で大台ヶ原駐車場に着くと、下界とは段違いの冷気にさらされ「えらいところに来てしまった」という気分に…。
日出ヶ岳
今回歩くのは、見どころが多く初心者向けの東大台コース*1。全長約8km、所要時間は4時間。平地ならなんということはありませんが標高差があるのでそう楽ではない…。
日出ヶ岳の展望台に向かう道は不必要と思われるくらい整備されています。ドライブにくる人の中にはハイヒールをはいたお姉さんもいるという話ですが、展望台だけ見て戻るのならヒールでも行けるかもしれない。
林床に一面においしげるササ。
鹿にかじられた樹皮。この「ササ」と「鹿」が、のちほど紹介する大台ヶ原の奇観を構成する大きな役割を果たしているのです。鹿はほんとうに…ほんとうに貪欲なのサ…アタイもどれだけのもの*2を奴らに奪われたことか…(遠い目でいろいろ回想)
ぼちぼちトウヒの立ち枯れも目に入ってきました。
こちらが大台ヶ原山の最高峰・日出ヶ岳の頂上。
ここからは大峰山系や熊野灘を眺めることができるのですが、ちょうど谷間からムクムクと雲が湧きはじめ、みるみるうちに周囲を霧の世界に変えてしまいました。大台ヶ原は4,800mmもの年間降水量があり、屋久島と並ぶ世界有数の多雨地帯なのだそうです。
正木峠への道をおりていきます。木の葉の茂り具合が一定の高さからになっていますが、これはブラウジングラインといって鹿が低い部分の葉を食べてしまうために起こる現象です。奈良公園や丹沢など鹿の多い土地にみられます。ササの背丈があまり高くならないのも鹿の影響です。
去年は奈良公園や関西の低山、屋久島など鹿の多い土地にたくさん行ったため、奴らの根こそぎっぷりをかなり目の当たりにしてしまいました…。「四つ足のイナゴ」と呼びたい!
シカオ「お前らこそネットイナゴやないか」
悪口をしっかり聞かれたばかりか、的確な反論にグウの音も出ません。
正木が原・正木峠
駐車場から一時間半ほどで、いよいよ荒涼とした正木が原にさしかかります。
どこまでも続くササ原に、トウヒの木が恐竜の化石のように立ち枯れています。
↑は屋久島の白谷雲水峡にある、いわゆる「もののけ姫の森」で撮った写真です。屋久島に勝るとも劣らない雨量をほこる正木が原も、植生は違えどもともとは苔がモサモサに生えたモスフォレストでした。
昭和30年代の伊勢湾台風により木が大量になぎ倒され、それらを搬出した結果、林床が乾燥して苔が生えにくくなります。そこにササが生えるようになり、ササを好物とするニホンジカが繁殖。トウヒの立ち枯れについては鹿の食害によるものなのか、温暖化や排気ガスによるものなのかはっきりとは言えないようですが、森林の衰退が深刻になっています。でもわたしのような観光客の多くは、単に豊かな原生林を求めてというよりはこの冥府のような奇観を見に来ている…というものすごく皮肉な現状…。
とはいえ、下界とは比べものにならないバラエティに富んだ大台ヶ原の動物たち。「どこかでお会いできるかもしれませんね」とあるが約一名、会うのがためらわれる感じのがいる。
動物たちの水飲み場。足跡の多さからものすごい盛況ぶりがうかがわれます。
牛石ヶ原
牛石ヶ原。ここは鹿の群れがよく見られるポイントです。
さっきは死に絶えたかのような描写をされていた苔も元気にモサモサしていてホッとしますね…。
七、八頭の鹿の群れが森を抜けていく。「カメラ小僧よ」「カメコだな」
「貧弱なレンズを必死にかまえている」「もっと凶器のような超望遠でなくては」「我らのかわいいシッポをとらえるのは」「貧乏人には不可能」
「おくやまに」「もみぢふみわけなくしかを」「撮れぬときこそ」「貧乏はかなしきー」
メレ子「おい!!勝手なこと言ってんじゃねえぞ!!!」
もうあんな憎まれ口をたたく奴らみんな食べちゃえばいいのに…きっとすごくおいしい…
大蛇粠(だいじゃぐら)
初夏に訪れたので高山ツツジが咲いていました。五月末にはシャクナゲの群生を見に多くの人が訪れます。
絶景ポイント・大蛇粠への階段。
千メートルの深さの谷に大蛇の頭のように岩が突き出ています。でもガスで何も見えない!
何も見えないので調子に乗る女
あ、近寄ってみたらやっぱり怖い…鉄柵もよく見たらグラグラだし…
快晴の大蛇粠の写真はこちら→大台ヶ原の見どころ1 上北山村
シオカラ谷
正木が原あたりでゆっくりしすぎたため、あと一時間ほどで駐車場に戻らないといけないのですが、この辺からアップダウンがきつくなるためとてもつらい…。
しかも川があまりにきれいなので「ちょっと休憩」とか言って岸辺に降りてしまう。
手の切れるような冷たさ!
この吊り橋を渡るとあとはつらいだけの急峻な登り道。バスに間に合うかという不安がいっそう口を重くします。
しかし霧をふくんだ森は美しいのだった…
紹介しといてナンなのですが、大台ヶ原ドライブウェイは12月頃〜翌年4月中旬頃まで閉鎖されます。春の行楽シーズンになったら行ってみてください…東大台コースも四季おりおりの多彩な表情があり、関西からでもアクセスは楽とは言えませんが、それだけの価値がある秘境だと思います。下の写真集は冬の西大台の写真がすごく素敵です!
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